迦陵頻伽について

インドがルーツ? 半人半鳥の美声の持ち主

 迦陵頻伽(かりょうびんが)は『阿弥陀経』などの仏典に登場する、極楽浄土に住み、美しい声で鳴く想像上の鳥。その美声は、仏の次に素晴らしく、仏法を説くなどといわれています。上半身は人間、下半身は鳥という姿で表され、多くは美声を象徴する楽器を持っています。
 仏教が生まれたインドには、半人半鳥の神様がいます。ガンダルヴァ、キンナラという名前で、両者は美声を備えており、神仏を供養する楽器の音を象徴すると考えられています。右図は、インドのサーンチーという仏教遺跡に残る彫刻の姿です。装飾品を身につけていることや上半身が裸であること、楽器を持つことなどが迦陵頻伽に通じています。迦陵頻伽は、一説にはスズメまたはその類で、インドでブルブルと呼ばれる鳥であるともいわれます。このブルブルは美しい声で鳴くヒヨドリの仲間で、「bulbul」という英語は「美声の歌手」という意味も持っています。

極楽浄土を象徴するモチーフ

 中国における迦陵頻伽の受容は5世紀初頭、鳩摩羅什(くまらじゅう)による『阿弥陀経』や『妙法蓮華経』などの漢訳からはじまりました。7世紀前半には図像も登場しはじめ、石窟寺院や美術工芸品などに数多くの姿が残されています。たとえば、敦煌莫高窟にある492窟のうち、40窟以上の壁画に迦陵頻伽が描かれ、その総数は140を超えます。
 最も多く登場するのは「阿弥陀浄土変相」や「薬師浄土変相」といった浄土を描いた絵です。初唐(7世紀)には極楽浄土に住む鳥として、壁画の隅に描かれましたが、その後の中唐(8世紀)になると、舞楽で楽器を演奏する浄土荘厳の中心的な存在になりました。さらにこの頃には絵に留まらず、皇族のお墓や舎利容器の装飾にも使用されています。

こんなところにも! 華麗な名脇役

 日本では、迦陵頻伽は遅くとも8世紀までに伝わり、絵画や彫刻、工芸、建築など様ざまな分野で用いられました。工芸では、正倉院宝物の螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんごけんびわ)や奈良国立博物館の牛皮華鬘(ごひけまん=左図)、絵では東福寺や南禅寺の天井絵や知恩院の阿弥陀浄土図、中尊寺の須弥壇にその姿がみられます。葛飾北斎も浮世絵の題材にしていますね。また雅楽では「迦陵頻」という演目が今も残っています。これは祇園精舎の供養の日に迦陵頻伽が飛んできて舞い踊ったのを、音楽を司る妙音天(弁財天)が舞にしたというもので、伝統的に子どもたちが舞うものとされています。

彫刻の分野では、仏像の光背の中に迦陵頻伽が取り入れられました。
その作例を見てみましょう。

・持物
左・・・笛
右・・・笙(雅楽で使う管楽器)

参考文献
・『古代文化』 第502号 古代学協会 2000.12
・勝木言一郎「人面をもつ鳥--迦陵頻伽の世界」(『日本の美術』第481号)至文堂 2006.6
・『アジア遊学』 第170号 勉誠出版 2014.1

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